翻訳

目標は「稼ぐこと」だけでいい

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この話をすると、日本の翻訳者を目指してスクールに通っている人はきっと驚くのではないかと思うのだが、これが現実であるというお話を少し。

某翻訳者のディレクトリを通じて、韓国のソウルで開かれたオフ会に出席したことがあった。外国人は私と、欧州系の翻訳者の女性だけで、それ以外は全員韓国の方たちで、もちろん翻訳の世界での共通語である英語でのコミュニケーションが全く問題ない人たちばかりが集って、みんなで焼肉をつついた。その中で、私にかなり執拗にコンタクトをとってきた翻訳会社の人がいて、その彼としばらく話をしていて聞いた話が、日本人としてはかなりショッキングだったので、ここでシェアしたい。

彼は特許翻訳に特化した翻訳会社で働いているのだが、彼の会社の仕事の多くは「英日の特許翻訳業」だと言う。そして彼の事務所に日本人は一人もいないし、ネイティブレベルの日本語を操る人も皆無らしい。それでも仕事が途切れず、逆に悲鳴をあげたいほどに忙しく、日本人の私がジョインしたら、ネイティブチェック付ということで精度が上がると思ったのだろう、チェッカーとして来て欲しいと何度もオファーを受けてしまった。

特許翻訳は専門ではなかったので無理だと言っても、しばらくは「それでも日本人に来て欲しい」とかなり粘られたが、それまでフリーランスでやっていたのに突然雇用されるステータスに抵抗があったので固辞したのだが、その日の夜は自宅に帰ってからも、悶々と色々と思い悩んでしまった。

日本語ネイティブでもない韓国人が、英語から日本語への特許翻訳でザクザクと稼いでいる事実に、かなり衝撃を受けてしまったのを覚えている。

英日の仕事は、国内だけに存在しているわけではない。むしろ海外の方が全体量は多いと思う。特にIT関係の仕事の場合は、一つのプロダクトを同時に複数言語に翻訳する必要があるため、言語ごとに個別に翻訳会社にお願いするのではなく、ある翻訳会社にすべて丸投げすることが一般的だ。その複数言語に対応している翻訳会社からそれぞれの言語についてフリーランスの翻訳者とプロジェクト毎に契約をすることが多いので、そういう大量ボリュームの仕事は、むしろ海外にこそ存在しているのである。そしてそういう翻訳会社と果敢にコミュニケーションがとれる、つまり「リーチできる人」だけが、その美味しい仕事をゲットすることができるのである。

ターゲット言語が日本語という仕事は国内にしかないと思っている人には、この現実を知ることは、かなり意義深いことだと思う。

ネイティブではない人が日本語への翻訳をして稼いでいると知ったら、ネイティブの私が負けるわけないじゃん、と思えればしめたもの。どんどんとグローバルに仕事をとってくることを考えよう。